マンションの共用スペースに、宅配ロッカーが設置されている。荷物が届くと、暗証番号付きの通知が届いて、好きな時間に受け取れる仕組みだ。入居してから三年ほど、特に不便を感じることもなく利用してきた。
ある日、いつも通り通知が届いたので、ロッカーを開けに行った。
だが、中に入っていたのは、自分が注文した覚えのない荷物だった。宛名を確認すると、確かに自分の部屋番号と名前が書かれている。ただ、差出人の欄には、聞いたことのない会社名が印字されていた。何かの間違いだろうと思いつつ、伝票の文字を何度も見直してみたが、自分の情報に見間違いはなかった。
不審に思いながらも、念のため開けてみると、中には、事務用の書類が数十枚、几帳面にまとめられて入っていた。表紙には「顧客情報一覧」とだけ書かれている。ページをめくる気にはなれず、そのまま封筒に戻した。
自分には全く関係のない会社の資料だった。慌てて管理会社に連絡し、誤配達の可能性を伝えた。
数日後、管理会社から折り返しの連絡があった。調べたところ、その会社は、以前このマンションの別の部屋を契約していたが、もう二年以上前に退去済みだという。なぜ今になって、自分の部屋番号宛に届いたのか、配送業者側でも原因は分からないとのことだった。管理会社の担当者も、「システム上の不具合かもしれません」と、あいまいな説明で終わってしまった。
書類はそのまま着払いで返送する手続きを取ったが、その夜、またロッカーの通知が届いた。
急いで確認しに行くと、扉の暗証番号入力画面に、見覚えのない数字が既に入力された状態で表示されていた。自分では触れていない番号だった。指が震えるのを感じながら、画面を見つめた。
画面をキャンセルし、改めて自分の番号で開けると、中は空っぽだった。ただ、ロッカーの奥に、小さく折りたたまれた一枚の紙だけが残されていた。
広げてみると、そこには、自分の勤務先の名前と、出社時間らしき数字が、几帳面な字で書かれていた。
差出人の名前は、どこにも書かれていなかった。
それ以来、ロッカーの通知が届くたびに、開ける前に一呼吸置くのが習慣になった。だが、恐怖はそれだけでは終わらなかった。
数日後、また通知が届いた。今度は、開ける前から嫌な予感がしていた。案の定、中には荷物ではなく、一枚の写真が入っていた。
写真には、自分がいつも利用している最寄り駅の改札が写っていた。角度から見て、駅構内の防犯カメラのような位置から撮られたものだとわかった。写真の隅、通勤ラッシュの人混みの中に、小さく、自分らしき後ろ姿が写り込んでいた。
裏を返すと、そこにも几帳面な字で、短くこう書かれていた。
「毎朝、同じ電車ですね」
血の気が引いた。すぐに警察に相談することにしたが、ロッカーの利用履歴を確認しても、不審な操作の記録は一切残っていないという回答だった。防犯カメラの映像にも、ロッカーに近づく不審な人物は映っていなかった。まるで、システムの記録そのものをすり抜けて、何かがロッカーの中身をすげ替えているかのようだった。
警察からは、当面は宅配ロッカーの利用を控え、荷物は対面受け取りに切り替えるよう勧められた。その助言に従い、それ以降はロッカーを一切使わないようにした。
だが、それから一週間後の夜、玄関の新聞受けに、見覚えのある封筒が挟まっていた。差出人の記載はなく、宛名だけが、自分の名前で几帳面に書かれていた。
開ける前から、もう分かっていた。ロッカーを使わなくなったところで、届け先を変えるだけの話だったのだと。
封筒の中には、何も入っていなかった。ただ、便箋の代わりに、一枚の白紙が折りたたまれて入っているだけだった。
その白紙を光にかざしてみると、うっすらと、何かを書いた跡だけが、圧痕として残っているのが見えた。判読しようと角度を変えてみたが、かろうじて読み取れたのは、一言だけだった。
「次は、玄関の前で」
それ以来、宅配便はすべて実家の住所に転送し、自宅の玄関ポストには、目張りをして使えないようにしている。
それでも、夜、玄関の外で物音がするたびに、あの几帳面な字を思い出してしまう。まだ、何も終わっていない気がしてならない。

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