【1分怪談】奥の洗濯機

一人暮らしを始めてから、近所のコインランドリーをよく利用している。今のアパートには小さな洗濯機しか置けず、布団や毛布などの大物は、どうしてもコインランドリーに頼ることになる。

深夜のほうが空いていて使いやすいので、仕事終わりの遅い時間に行くことが多かった。二十四時間営業で、店内には防犯カメラも設置されている、ごく普通の店舗だった。

その夜も、洗濯物を抱えて店に入ると、六台ある洗濯機のうち、五台は空いていて、一番奥の一台だけが稼働中だった。他に利用客の姿はなかった。店内には、いつも通り、乾燥機の低い稼働音だけが響いていた。

適当な一台を選んで洗濯物を入れ、待っている間、備え付けの椅子に座ってスマートフォンをいじっていた。時折、稼働中の洗濯機からドラムの回転音が聞こえてくる以外は、静かな夜だった。

しばらくすると、稼働していたはずの奥の洗濯機が、ガタン、と大きな音を立てて止まった。運転終了の音とは明らかに違う、不自然な止まり方だった。通常の終了なら、ピピピという電子音が数回鳴って知らせてくれるはずだが、その音は一切しなかった。

一瞬、店の外を誰かが通ったのかとも思ったが、外に人影はなく、店内も自分一人だけだった。気になって近づいてみると、扉の小窓から、中の様子が見えた。洗濯物は入っていたが、水も泡もすでに抜けきっていて、ドラムだけが小刻みに震え続けていた。運転が止まっているのに、ドラムだけが動いているというのが、どうにも不自然だった。

その振動に合わせて、洗濯物の隙間から、何か黒っぽい布のようなものが、外側へじわじわとはみ出しているのが見えた。最初は洗濯物の一部が扉に挟まっているだけだろうと思い、それほど気にしていなかった。

だが、見ているうちに、その布のようなものが、まるで内側から押し出されるように、扉の隙間からゆっくりと垂れ下がってきた。布の先端は、床につきそうなほど長く伸びていて、自分が入れた記憶のある洗濯物にしては、明らかに量も長さも不自然だった。しかも、その布の表面は、湿っている様子もなく、乾いたまま揺れ続けていた。

さすがに気味が悪くなり、それ以上は近づかず、少し離れた椅子に座り直した。手元のスマートフォンの画面を見つめながらも、意識はどうしてもあの洗濯機の方に向いてしまい、まともに文字を追うこともできなかった。

自分の洗濯が終わるまでの間、その洗濯機に目を向けないようにしていたが、視界の端で、ドラムの振動だけは、最後までずっと続いていた。垂れ下がった布のようなものは、それ以上伸びることも縮むこともなく、ただ小刻みに揺れ続けているだけだった。

自分の洗濯機が終了の電子音を鳴らしたとき、思わず体がびくっと跳ねた。逃げるように洗濯物を取り出し、たたむことも忘れて、そのまま袋に詰め込んで店を出た。振り返る勇気はなかった。

翌日、明るい時間帯に、同じコインランドリーの前を通りかかった。ガラス越しに店内を覗いてみると、一番奥の洗濯機は、何事もなかったかのように、他の機種と同じように静かに佇んでいた。扉も普通に閉まっていて、前夜の異様な光景が嘘のようだった。

それ以来、そのコインランドリーに行くときは、一番奥の洗濯機だけは使わないようにしている。空いている台がそこしかないときは、多少待ってでも、他の利用客が空けるのを待つことにしている。

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