市民プールの夜間管理を任されている。営業終了後、施設全体を見回って、機械室の点検と施錠を済ませるのが仕事だ。
ある夜、いつも通り見回りをしていると、屋内プールのフロアに差し掛かったところで、水面が小さく波打っているのに気づいた。
循環ろ過装置は稼働しているが、それだけであれほど規則的な波は普通できない。誰か忍び込んでいるのかと思い、フロア全体を見渡したが、人の姿はどこにもなかった。
念のため、プールサイドまで近づいて確認した。波はちょうど、二十五メートルプールの中央あたりから広がっているように見えた。しばらく見ていると、波は自然に収まっていった。
その夜はそれ以上何も起きず、通常通り施錠して帰った。
それから月に一、二度、似たようなことが続くようになった。誰もいないはずの時間に、決まってプールの中央あたりから、静かな波紋が広がる。音もなく、ただ水面だけが揺れる。
ある夜、思い切って照明を落とさず、少し離れた場所からじっと水面を見張ってみることにした。
しばらくすると、また同じように波紋が広がり始めた。目を凝らしていると、波紋の中心、ちょうど水中の底のあたりに、うっすらと人影のようなものが、ゆっくり泳いでいるように見えた。
瞬きをした瞬間、その影は消えていた。
翌朝、施設の古い利用記録を確認する機会があったが、特にそれらしい情報は見当たらなかった。
それ以来、夜間の見回りでプールフロアに入るときだけは、水面を直接見ないようにしている。

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