【1分怪談】最終電車の忘れ物

地方の私鉄で駅員をしている。俺が勤めてる駅は、一日の利用者が数百人程度の、無人駅に近い小さな駅だ。

最終電車は毎晩23時47分発。それが出た後、駅員がホームの見回りをしてから施錠して帰る、っていうのが決まりになってる。

去年の秋頃から、月に一、二回くらいのペースで、妙なことが続いてた。

最終電車を見送った後、ホームの端にあるベンチに、誰のものか分からない鞄が置き去りにされてることがある。最初に気づいたときは、その日最終電車に乗り込んだのは、自分が改札で見送った男性客一人だけだったのを覚えてたから、余計に引っかかった。その客は、鞄なんて持ってなかった。

一応、規定通り忘れ物として保管して、引き継ぎ表にも記録した。数日後、また同じベンチに、今度は違う形の鞄が置いてあった。中身を見ても、持ち主が分かるようなものは何一つ入ってなかった。

三度目があった夜、さすがに気になって、駅の事務室に保管されてる古い引き継ぎ日誌を、時間を見つけて遡って読んでみることにした。

日誌は歴代の駅員が交代で書き継いできたもので、事務室の奥の棚に、何十冊分も積み重なっていた。ホコリをかぶった一番古い一冊から順に開いていくと、意外なことに気づいた。

数年おきに、同じような記述が挟まっていた。

「23時47分発の後、ホームベンチに忘れ物、持ち主不明」

字の癖から見て、書いた駅員は毎回違う人物だった。日付を並べてみると、多いときで一年に二、三回、少ないときは数年間隔が空きながら、何十年分にもわたって、同じ記述が繰り返されていた。

一番古い記述は、駅の開業からそれほど時間が経っていない頃の日付だった。それより前のページは残っていなかったので、それが最初の記録なのかどうかは分からなかった。

日誌には、忘れ物の中身についての詳細が書かれていることもあった。ある年の記述では「中身は空、ただし内側の裏地が湿っていた」とあり、別の年には「開けると、線香のような匂いがした」と記されていた。

自分が見つけた鞄についても、中身は空で、うっすらと湿っているように感じたのを思い出した。あのときは気のせいだと思って、特に気にしていなかった。

日誌をすべて読み終えても、これが何を意味するのか、はっきりとした説明は一切書かれていなかった。歴代の駅員たちも、事実だけを淡々と記録し続けてきただけのようだった。

その日以降、最終電車を見送った後の見回りでは、ベンチのあたりに近づくたびに、無意識に足取りが速くなる。

ただ、今度もしまた同じ鞄を見つけたら、今度は自分も、日誌に何を書き残すべきなのか、まだ決めかねている。

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