【1分怪談】24時間営業の売店

これは、二年前の冬、実家への帰省中に体験した話だ。

毎年年末は、実家に帰るのに片道五時間ほどの距離を車で移動している。今回も同じルートだったが、仕事の都合で出発が遅れ、結局深夜零時を過ぎてから高速道路に乗ることになった。年末の帰省ラッシュを避けるため、あえて深夜出発を選んだのだが、思った以上に長距離の運転で、途中から強い眠気に襲われるようになっていた。

助手席には誰も乗っておらず、車内はラジオの音だけが響いていた。何度か窓を開けて外気を取り込み、コンビニで買った眠気覚ましのガムを噛みながら運転を続けていたが、効果は長くは続かなかった。

このまま無理をするのは危険だと判断し、休憩を兼ねて、途中のサービスエリアに立ち寄ることにした。地方の、それほど大きくないサービスエリアで、深夜ということもあり、駐車場には数台の車が停まっているだけだった。

車を降りると、真冬の冷たい空気が肌を刺した。吐く息が白く広がり、駐車場の照明に照らされて、うっすらと霜が降りているのが見えた。建物の中に入ると、24時間営業の売店だけが煌々と明かりをつけていて、他の飲食店はすべてシャッターが下りていた。館内放送も止まっていて、聞こえるのは空調の音だけだった。

コーヒーでも買って眠気を覚まそうと、売店に向かった。店内には店員が一人だけで、レジでスマートフォンをいじっていた。客は自分の他に誰もいなかった。棚に並んだ土産物や菓子類が、やけに整然と、静かに並んでいるのが印象的だった。

コーヒーを買い、店を出ようとしたところで、ふと、店の隅にある雑誌コーナーに、誰かが立っているのが目に入った。

黒っぽいコートを着た、初老の男性だった。じっと一冊の雑誌を眺めているようだったが、その立ち姿が、どこか不自然に感じられた。

気のせいだと思い、そのまま外に出た。車に戻り、コーヒーを飲みながら少し休憩していると、フロントガラス越しに、さっきの男性が、売店の前をゆっくりと歩いているのが見えた。

特に荷物も持たず、ただゆっくりと、行き先も定まらないような足取りだった。真冬だというのに、コート以外に手袋やマフラーを身につけている様子もなく、その点も、どこか妙な違和感として頭の片隅に残った。しばらく眺めていたが、やがて建物の裏手、駐車場の照明が届かない暗がりの方へと、姿を消していった。

そのまま少し休もうとシートを倒して目を閉じ20分ほどが経過したであろうか、

少し体を動かした方がいいと思い車の外に出ることにした。冷たい空気を吸いながら、駐車場をゆっくりと歩いていると、さっきの男性が消えていった方向に、小さな喫煙所があることに気づいた。

近づいてみると、喫煙所のベンチに、あの男性が座っていた。うつむいたまま、微動だにしない。周囲には吸い殻の一つも落ちておらず、灰皿も綺麗なままだった。

「お疲れ様です」

会釈のつもりで軽く声をかけたが、返事はなかった。近づきすぎるのも失礼かと思い、少し離れた場所から、それとなく様子をうかがった。

その距離からでも分かるほど、男性の顔色は青白かった。街灯の明かりのせいだろうかとも思ったが、それにしても不自然なほどの色だった。タバコを吸っている様子もなく、ただそこに座っているだけだった。呼吸をしているのかどうかさえ、はっきりとは分からなかった。

なんとなく居心地が悪くなり、そのまま車に戻ることにした。歩きながら何度か振り返ったが、男性はベンチに座ったまま、こちらに視線を向けている様子はなかった。

運転席に座り、シートベルトを締めていると、助手席側の窓に、コンコンと軽くノックする音がした。

驚いて振り向くと、窓のすぐ外に、あの男性が立っていた。いつの間に、あの喫煙所からここまで移動してきたのか、まったく気配を感じなかった。何かを言いたげに口を動かしていたが、ガラス越しでは声は聞こえなかった。表情はうかがえず、ただ口元だけが、同じ動きを繰り返しているように見えた。

心臓が跳ね上がるのを感じながら、慌ててエンジンをかけ、車を発進させた。バックミラー越しに確認すると、男性はその場に立ったまま、こちらを見送るように、じっとたたずんでいた。

その後の運転は生きた心地がせず、次のサービスエリアまで、無理を承知でノンストップで走り続けた。

実家に到着してから、この話を家族にしたところ、意外な反応が返ってきた。父が、あのサービスエリアの名前を聞いて、少し表情を曇らせたのだ。

「そこ、何年か前に、事故があった場所じゃなかったか」

詳しい記憶は曖昧だったが、父の話では、そのサービスエリア付近で、深夜に高齢の男性が車にはねられる事故があったという話を、昔ニュースで見た記憶があるとのことだった。真偽のほどは分からないが、父自身もそれ以上詳しくは覚えていないようだった。

後日、気になって、そのサービスエリアの名前と事故について、インターネットで調べてみようとしたが、これといった具体的な情報は見つからなかった。父の記憶違いだった可能性も、もちろんある。当時のニュース記事を検索してみても、それらしい報道は見当たらず、結局、真相は分からないままだった。

それでも、あの夜見た男性の顔だけは、今でもはっきりと思い出せる。青白い顔、うつむいた姿勢、そして、窓の外から何かを訴えかけるように動いていた口元。あの口の動きが何を伝えようとしていたのか、唇の形から推測しようと、何度も記憶を辿ってみたことがあるが、いまだに答えは出ていない。

それ以来、あのルートで帰省するときは、できるだけ別のサービスエリアを使うようにしている。多少遠回りになったとしても、あの場所にだけは、二度と立ち寄りたくないというのが、正直な気持ちだ。カーナビの設定でも、あのサービスエリアだけは、休憩地点の候補から意識的に外すようになった。

今でも、あの男性が何を伝えようとしていたのか、分からないままだ。ただ、もしまた同じ状況に遭遇したら、今度は声をかけずに、すぐにその場を離れようと決めている。あの夜以来、深夜の高速道路を一人で走るときは、以前よりも慎重に、休憩のタイミングと場所を選ぶようになった。

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