【1分怪談】既読のつかないメッセージ

高校時代の同級生に、あまり親しくなかった女子がいた。

同じクラスになったのは一年生のときだけで、特別に仲が良かったわけでも、逆に何かトラブルがあったわけでもない。ただ、教室の中で近い席になったことがある程度の、いわゆる「顔見知り」の一人だった。在学中は特に接点もなく、卒業以来、十年近く連絡を取ったこともなかった。

去年の春、SNSのメッセージ機能に、突然その子から連絡が来た。「久しぶり、覚えてる?」という軽い挨拶から始まり、しばらくは当たり障りのないやり取りが続いた。近況報告や、当時のクラスメイトの話題など、他愛のない内容だった。この時点では、特に違和感もなく、懐かしさもあって、こちらも普通に返信を続けていた。

だが、数回のやり取りを経て、彼女の様子が少しずつ変わっていった。

「話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」

「誰にも言えない相談があって」

メッセージの頻度が増え、内容も次第に深刻さを増していった。仕事のことか、家庭のことか、詳しくは書かれていなかったが、行間から追い詰められているような雰囲気だけは伝わってきた。文章の端々に、以前のやり取りにはなかった、切羽詰まった空気がにじんでいた。

最初のうちは、できる範囲で相談に乗ろうとした。当たり障りのない励ましの言葉を返したり、話を聞く姿勢を見せたりした。だが、卒業以来ほとんど関わりのなかった相手から、次第に重くなっていく相談を受け続けることに、正直、戸惑いと負担を感じるようになっていった。

仕事の忙しさも重なり、返信までの間隔が少しずつ空くようになった。既読をつけたまま、うまく言葉が見つからず、そのまま返信しない日が増えていった。悪気があったわけではなく、ただ、どう向き合えばいいのか分からなかった、というのが正直なところだった。

ある夜、また新しいメッセージが届いた。

「もう誰にも迷惑かけたくないから、これで最後にする。今まで話聞いてくれてありがとう」

不穏な文面に胸騒ぎがしたが、どう返していいか分からず、結局その夜は既読をつけることすらできなかった。何か気の利いた言葉を返さなければと思いながら、スマートフォンの画面を何度も開いては閉じ、結局、朝まで何も送れないまま時間だけが過ぎていった。

翌朝、慌ててメッセージを開き、何か返そうとしたが、既に彼女のアカウントは削除されていて、それまでのやり取りの履歴ごと、すべて表示されなくなっていた。プロフィール画面には「見つかりませんでした」という、素っ気ない表示だけが残っていた。

共通の知人を辿って連絡を取ってみたところ、彼女がその数日前から音信不通になっており、家族が捜索願を出しているという話を聞かされた。それ以上の詳しい状況は、誰も把握していないようだった。何人かの同級生とも連絡を取り合ったが、誰も彼女の近況を詳しくは知らず、みな一様に戸惑うばかりだった。

それから数週間、特に何の音沙汰もないまま、日常に忙殺されて、次第にそのことを考える時間も減っていった。仕事や普段の生活に追われる中で、意識の隅に追いやられていったというのが、正直なところだった。

ある夜、スマートフォンの通知音で目を覚ました。時計を確認すると、深夜二時を少し過ぎた頃だった。画面を確認すると、削除されたはずの、あの彼女のアカウントから、メッセージが一件届いていた。

一瞬、寝ぼけているのかと思い、何度も目をこすってから、改めて画面を見直した。間違いなく、彼女のアイコンと名前が、通知の欄に表示されていた。

震える手でアプリを開いてみると、本文は空白で、送信時刻だけが表示されていた。時刻は、深夜二時十七分。

その時刻に、たまたま目を覚ましていた自分は、確かに数分前まで、彼女のことを何となく思い出していた。布団の中で、ふとあの最後のメッセージのことを考えていた、ちょうどその時間だった。

しばらく画面を見つめたまま、身動きが取れなかった。返信しようにも、どう言葉をかければいいのか分からず、結局その場では何もできないまま、朝を迎えた。

翌日、アプリを開き直しても、そのメッセージはどこにも見当たらなかった。履歴にも、通知にも、一切の痕跡が残っていなかった。友人にも試しにその話をしてみたが、寝ぼけていたのではと軽く流されてしまい、それ以上は誰にも話せなくなった。

彼女がその後どうなったのか、今も知らないままだ。共通の知人からも、それ以降は特に新しい情報は入ってこない。

ただ、あの夜届いた空白のメッセージだけは、今も消えることなく、頭の片隅に残り続けている。

もしあのとき、もう少し早く返信していたら、何か違っていたのだろうか。

答えの出ない問いを、今でも時々、繰り返し考えてしまう。

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