【1分怪談】309号室からの内線

ビジネスホテルのフロントで、夜勤専門のスタッフをしている。

深夜、フロントの電話が鳴ることは珍しくない。氷が欲しい、タオルを追加してほしい、そういった内線がほとんどだ。

ある夜、309号室から内線が入った。

出てみると、女性の声で「すみません、フロントの方ですか」とだけ聞かれた。はい、と答えると、そのまま何も言わず、電話が切れた。

宿泊者名簿を確認すると、309号室は空室だった。その日、その部屋には誰もチェックインしていない。

不審に思い、マスターキーを持って様子を見に行った。ドアをノックしても返事はなく、鍵を開けて中を確認したが、当然のように誰もいなかった。ベッドも綺麗に整えられたままだった。

その夜はそれきりで、特に何も起こらなかった。

数週間後、また同じように309号室から内線が入った。今度もやはり空室の日だった。

「すみません、フロントの方ですか」

同じ女性の声、同じ一言だけで、電話は切れる。

さすがに気味が悪くなり、先輩スタッフに相談した。すると、少し困った顔でこう言われた。

「309、たまにあるんだよね、それ。前にもそういう話、聞いたことある」

詳しい経緯は先輩も知らないとのことだったが、それ以上聞くのも憚られる空気だった。

それ以来、309号室が空室の夜は、フロントの内線ランプが自然と目に入るようになってしまった。

先日の夜勤、また309号室のランプが点灯した。

今回は受話器を取っても、何も聞こえなかった。声もなく、ただ静かな沈黙が続いたあと、こちらが何か言う前に、静かに切れた。

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