【1分怪談】ボイスチャット

これは、大学三年の頃、実家で一人留守番をしていたときの話だ。

両親が二泊三日の旅行に出かけていて、その週末は久しぶりに一人でゆっくり過ごせる時間だった。一人暮らしをしているわけではなかったので、家族が家を空けるこういう機会は、当時の自分にとってはちょっとした特別な週末だった。夕食は適当に冷凍食品で済ませ、風呂も早めに済ませて、夜はゲームに没頭できる時間を長く確保しておいた。夜、特にやることもなかったので、オンラインでできる対戦ゲームを起動し、いつものメンバーとボイスチャットをつなぎながら遊んでいた。

メンバーは大学のサークルで知り合った四人で、週に二、三回、こうして夜な夜な集まってプレイするのが習慣になっていた。それぞれ別の学部で、普段顔を合わせる機会は多くなかったが、このゲームの時間だけは、みんな都合をつけて集まるのが暗黙の了解になっていた。その日も、いつも通りの他愛のない雑談を交えながら、対戦を繰り返していた。授業の愚痴や、就活の話、他愛のない噂話などをしながら、時間はあっという間に過ぎていった。

日付が変わって、深夜一時を過ぎた頃だった。一戦終えて休憩を挟んでいると、ボイスチャットの向こうで、メンバーの一人が急に黙り込んだ。ゲーム内のチャット欄で軽くふざけていた流れだったので、その急な静けさが、なんとなく違和感として耳に残った。

「どうした?」

声をかけると、少し間を置いてから、彼はこう言った。

「今さ、お前んちの後ろの窓、誰かいなかった?」

自分の部屋は一階にあり、背後にはカーテンを閉め切った窓があった。振り返っても、当然何も見えるはずはなかった。心臓が少しだけ跳ねるのを感じながら、なるべく平静を装って答えた。

「いや、いないと思うけど。何かあった?」

「一瞬、画面共有の隅に、なんか映った気がして」

ちょうどその時間、ゲーム画面を共有しながらプレイしていたので、彼の言う通り、背景に自分の部屋の一部が映り込んでいた可能性はあった。ただ、自分では特に気づかなかった。

他のメンバーも同じ瞬間の映像を確認してくれたが、はっきりとは分からないとのことだった。「気のせいじゃない?」という結論になり、その場はそれで流れた。

だが、それから三十分ほど経った頃、また同じメンバーが、今度は少し慌てた様子でこう言った。

「今、窓のカーテンのところ、動いたよな?」

さっきよりも明らかに声のトーンが違っていた。冗談を言っている様子ではなく、本気で戸惑っているのが、声の震え方から伝わってきた。

今度は自分でも、共有している画面を確認してみた。録画機能はオンにしていたので、少し前まで遡って見返してみることにした。マウスを操作する手が、少しだけ汗ばんでいるのに気づいた。

映像を確認すると、確かに、部屋の隅、カーテンの裾のあたりが、わずかに揺れているように見える瞬間があった。窓は閉め切っていたし、エアコンの風もそちらまでは届かない位置だった。何度か巻き戻して確認したが、揺れているのはその一箇所だけで、他の部分に動きは見当たらなかった。

他の二人のメンバーにも、同じ映像を画面越しに見てもらった。一人は「言われてみればそう見えなくもない」という程度の反応だったが、もう一人は「これ、風とかじゃなくない?」と、はっきりと不安げな声を漏らした。ちょうどその頃には、雑談を楽しんでいたはずの通話の空気が、すっかり張り詰めたものに変わっていた。

その瞬間から、なんとなく落ち着かない気持ちになった。だが、一人で怖がっている姿を見せるのも気恥ずかしく、「多分エアコンの風だよ」と、あえて軽く流すように答えた。

それから小一時間ほど、ゲームを続けた。特に何も起きないまま、メンバーもそれぞれ「そろそろ寝るわ」と言って、一人、また一人とログアウトしていった。

最後まで残っていたのは、最初に指摘してきた一人だけだった。彼が抜ける直前、こう言い残した。

「なんかごめん、変なこと言って。多分気のせいだと思うから、気にせず寝てな」

「うん、大丈夫。ありがとう」

そう返して、通話を終えた。部屋には、自分一人だけが残された。

急に静かになった部屋の中、エアコンの作動音だけが響いていた。それまで賑やかだった通話が終わった途端、部屋の静けさが妙に際立って感じられた。念のため、カーテンの向こうを確認しようと、窓に近づいた。一歩進むごとに、床のきしむ音が、いつもより大きく聞こえる気がした。

カーテンを少しだけめくって外を覗いてみたが、暗い庭が広がっているだけで、特に変わった様子はなかった。街灯の明かりが遠くにぼんやりと見えるだけで、人影らしきものは見当たらない。少しの間、そのまま外の様子を眺めていたが、結局何も起きず、安心して、そのままベッドに入ることにした。

眠りにつく前、ふと、録画していた映像のことを思い出した。あの揺れたカーテンの映像、もう一度確認してみようかとも思ったが、正直、これ以上見るのが怖くなって、結局そのままスマートフォンを閉じ、布団をかぶって眠りについた。夜中に何度か目が覚めた気がしたが、その都度、特に何も起きていないことを確認して、また眠りに戻った。

翌朝、両親が旅行から帰ってくる前に、部屋を軽く片付けようとカーテンを開けたとき、窓の桟の部分に、うっすらと土のようなものが付着しているのに気づいた。指先でなぞってみると、乾いた土の感触がはっきりと残っていた。

自宅の庭には、そのあたりに土がむき出しになっている場所はなかった。花壇はもっと離れた位置にあり、この窓の下は、コンクリートで固められている場所のはずだった。念のため、外に回って窓の下を確認してみたが、地面はいつも通りのコンクリートのままで、土が舞い込むような要素は見当たらなかった。

拭き取りながら、昨夜のことを思い返した。あの録画映像を確認する勇気は、結局今も持てないままだ。パソコンのフォルダには、あの日の録画データが、今も削除されずに残っている。ファイル名を見るだけで、あの夜の緊張感が蘇ってくるようで、開くことができずにいる。

その後、あの日一緒にいたメンバーの一人に、それとなくあの夜のことを聞いてみたことがある。彼は少し気まずそうに、「あれ以来、なんかお前の家の窓、見ないようにしてる」とだけ答えた。詳しい理由は教えてくれなかった。

いつか見返そうと思いながら、もう二年近く、そのファイルを開けずにいる。

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