【1分怪談】常連さん

コンビニで深夜バイトしてた頃の話なんだけど。

大学二年の頃、家賃と生活費を稼ぐために、駅前のコンビニで週四日、深夜のシフトに入ってた。時給が良かったのと、単純に人と話さなくていい時間帯が性に合ってたのが理由。

一人暮らしの女子大生が深夜バイトなんて、と友達にはよく心配されたけど、店自体は駅前で人通りもあったし、そこまで危険な感じもしなかった。

週に二、三回くらいのペースで来る常連の男がいて。歳は四十くらい、スーツではなく作業着っぽい格好のことが多くて、いつも同じ時間、いつも同じ缶コーヒーとタバコだけ買っていく人だった。

最初は特に何とも思ってなかった。むしろ、無口で余計な世間話もしてこないタイプだったから、深夜シフトの中では楽な客の部類だと思ってたくらい。

変化があったのは、働き始めて半年くらい経った頃だった。レジ打ってるときに、いきなりこう言われたのよ。

「今日、髪切った?」

その日、確かに午後に美容院行った日で。びっくりして「あ、はい」って答えたら、向こうは「似合ってるね」って笑って帰っていった。

その時はただの世間話だと思って流した。むしろ、いつも無口な人がそういうことを言ってくれたのが、少し嬉しかったくらいだった。

でも、次に会ったとき、また違うことを言われて。

「彼氏さんと最近うまくいってる?」

彼氏がいることなんて、店で話したこともないし、SNSも鍵かけてる。友達にも、バイト先ではあまり私生活の話をしないようにしてた。なんで知ってるんだろうって、そこで初めてゾッとした。

「え、何でそれ知ってるんですか」

そう聞き返したら、彼は少し困ったような顔で、

「いや、なんとなく雰囲気で分かるよ」

とだけ答えて、それ以上は何も言わずに帰っていった。誤魔化された感じがして、余計に気味が悪かった。

それとなく店長に相談したんだけど、「常連さんだし、まあそんなに気にしなくても」みたいな軽い感じで流された。他のスタッフに聞いても、その人自体は前から普通に来てる客で、特にトラブルを起こしたこともないという話だった。

それでも気になって、その日から退勤後、家までの帰り道を毎回変えるようにしてた。遠回りになる日も多かったけど、念のためだと自分に言い聞かせてた。

それから一ヶ月ほど、彼は普段通りの様子で来店し続けた。特に変わったことを言われることもなく、少しずつ警戒心も薄れていった。

だが、ある深夜、いつも通りレジに立ってたら、また彼が来た。

いつもの缶コーヒーとタバコをレジに置きながら、今度はこう言った。

「今日、アパートの角部屋、洗濯物出しっぱなしだったよ。危ないから気をつけて」

言われてみれば、確かにその日の朝、急いで家を出たせいで洗濯物を取り込むのを忘れていた。うちの部屋は、そのアパートの中でも角部屋で、道路側からベランダが見える位置にある。

だからこそ、彼が知っているはずのない情報だった。角部屋だということも、洗濯物を干したままだったことも、誰かに話した覚えは一度もない。

うちのアパートの場所も、部屋の場所も、バイト先の誰にも教えたことなかった。SNSにも一度も投稿したことがなかったし、通学ルートすら誰かと話した記憶がない。

血の気が引くのが自分でも分かった。声が震えないよう必死に「ありがとうございます」とだけ答えて、彼が店を出ていくのを待った。

その夜、勤務が終わってから、一人で店に残っていた店長に事情をすべて話した。今度はさすがに店長の顔色も変わり、警察に相談することを勧められた。

翌日、交番に行って事情を説明したが、実際に危害を加えられたわけではなく、明確な脅迫や付きまといの証拠もないため、対応は「何かあればすぐ連絡してください」という程度に留まった。もどかしさだけが残った。

それ以来、そのバイトは辞めた。引っ越しも考えたが、契約の関係ですぐには動けず、しばらくは家族に頼んで、実家から祖母が泊まりに来てくれることになった。

半年ほど経って、ようやく引っ越しを済ませ、新しい生活を始めた。あのコンビニの近くを通ることも、あれ以来一度もない。

今でも、あの人が今どこで何をしているのか、たまに考えることがある。

もしかしたら、今も別の誰かの生活を、同じように静かに把握し続けているのかもしれない。そう思うと、幽霊よりもよほど、得体の知れない恐怖だった。

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