【1分怪談】朝、腕にあったもの

一人暮らしを始めてから、夜中に金縛りに遭うことが、たまにあった。

新しい環境に慣れないせいだろうと、最初は気にも留めていなかった。実家にいた頃は、そういう経験は一度もなかったので、余計に一人暮らしのストレスのせいだと思い込んでいた。

体は動かないのに、意識だけははっきりしている、あの独特の感覚。最初は疲れのせいだろうと、そこまで気にしていなかった。週に一度あるかないか、その程度の頻度だったので、生活に支障が出るほどでもなかった。

ある朝、いつも通り目が覚めて、着替えようとしたときに気づいた。

左腕の内側に、見覚えのない痣ができていた。青黒く、ちょうど何かに強く掴まれたような形をしている。指の形のようなものが、複数、腕に食い込むように浮かび上がっていた。

前日、ぶつけた記憶も、何かに挟まれた覚えもなかった。仕事柄、力仕事をするわけでもなく、日常生活の中で説明のつく痣ではなかった。鏡の前で何度も角度を変えて確認したが、寝ている間に自分でつけられるような位置でもなかった。

数日で消えるだろうと放っておいたが、二週間経っても、痣は薄くなるどころか、むしろ輪郭がはっきりしてきているように見えた。

さすがに不安になり、皮膚科を受診することにした。病院で診てもらったところ、医師も首をかしげるばかりで、内出血の一般的な経過とは違うと言われた。血液検査でも、特に異常な数値は見つからなかった。念のため大きな病院への紹介状も書いてもらったが、そちらでも明確な原因は分からず、経過観察という結論で終わった。

その頃から、金縛りに遭う頻度も増えていた。体が動かせない間、腕のあたりに、じわりと重みがのしかかるような感覚を覚えることがあった。誰かに強く握られているような、そんな感触が、意識のはっきりした状態で続くのは、思っていた以上に苦痛だった。声を出そうとしても、喉から音が出ず、ただじっと耐えることしかできなかった。

一ヶ月ほど経って、ようやく痣は薄くなり、跡形もなく消えていった。金縛りも、それと入れ替わるように、次第に起きなくなっていった。まるで、何かが満足して、静かに離れていったかのような、そんな印象が残った。

今でも、あの掴まれたような痣の形だけは、はっきりと思い出せる。夜、ふと腕の内側に視線が行くたび、あの青黒い痕がまだそこにあるような、そんな錯覚に襲われることがある。それ以来、寝室の環境を変えたり、お守りを枕元に置いてみたりと、思いつく対策はいくつか試したが、あの痣が何だったのか、結局今も分からないままだ。

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