社会人一年目の頃、家賃を抑えたくて、都内のシェアハウスに住んでいた。
個室はあるけど、キッチンとリビングは共用というよくあるタイプで、住人は自分含めて五人。最初の半年くらいは、みんな適度な距離感で仲良くやれていたと思う。
変化があったのは、住人の一人が引っ越して、新しい人が入ってきてからだった。
三十代半ばくらいの男性で、物腰は柔らかく、最初の顔合わせのときも礼儀正しい印象だった。ただ、少しだけ引っかかったのは、リビングで顔を合わせるたびに、やたらとこちらの予定を細かく聞いてくることだった。
「明日も仕事ですか?何時頃帰ってきます?」
最初は世間話の延長だと思っていた。だが、次第に、その質問の頻度と正確さが気になり始めた。
ある日、友人と飲みに行く約束をしていたのに、急な残業で予定が変わったことがあった。その日の夜、共用リビングで彼と鉢合わせたとき、
「今日、飲み会中止になったんですね」
と、こちらが誰にも話していないはずのことを言われた。友人にすら、直前にLINEで伝えただけだったのに。
気味が悪くなって、それとなく他の住人に、あの人のこと何か知ってるか聞いてみた。すると一人が声を潜めてこう言った。
「あの人、前にみんなのLINEグループ入ってたとき、既読だけついてて誰も返信してないメッセージにも、なぜか正確に反応してきたことあったよ」
グループの通知設定や、誰がいつ読んだかなんて、普通は分かるはずがない。
不安になって、部屋の鍵を二重にし、共用スペースにはできるだけ顔を出さないようにした。
数週間後、彼は特に理由も告げずに、突然シェアハウスを退去していった。運営会社に確認しても、退去理由は「個人的な事情」としか教えてもらえなかった。
彼が出ていった後、自分の部屋の掃除をしていて、クローゼットの奥、床と壁の隙間から、小さな黒い部品のようなものを見つけた。
詳しい人に見てもらったところ、それは市販の小型盗聴器の部品だった。
いつから仕掛けられていたのか、他の部屋にもあったのか、今も分からないままだ。

コメント