【1分怪談】バスの忘れ物

夜勤明けの帰りに、いつも始発のバスに乗ってるんだけどさ。

ある朝、車内に自分ひとりしかいない状態で、座席の網棚に傘が一本、置きっぱなしになってるのに気づいたの。

黒い、なんの変哲もない折りたたみ傘。

次の停留所で誰か乗ってくるかと思ったら誰も乗ってこなくて、そのまま終点まで、結局あたし以外誰も乗らなかった。

終点で降りるとき、一応運転手さんに「これ、忘れ物だと思うんですけど」って傘を渡そうとしたのね。

そしたら運転手さん、こっちをちらっと見て、真顔でこう言った。

「ああ、それ触らなくていいですよ」

なんでですかって聞いたら、

「毎回そこに置いてあるので」

としか答えてくれなくて。

毎回ってどういうことか気になったけど、次のお客さんが待ってる様子だったから、それ以上は聞けずに降りた。

その日は気にしないようにしてたんだけど、次の日の朝も、同じ始発バスに乗ったら、同じ網棚の同じ位置に、同じ傘が置いてあった。

雨なんて、ここ最近一度も降ってない。

気になって、思い切って傘を広げてみようとしたら、骨が一本、内側に折れ曲がってた。

まるで、誰かに掴まれてそのまま握りつぶされたみたいに。

それ以来、始発バスに乗るときは、なるべくその網棚の下の座席には座らないようにしてる。

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