【1分怪談】深夜の乗客

タクシーの運転手をもう十五年やっているが、この話だけは今でも忘れられない。

深夜二時過ぎ、住宅街の外れで一人の女性を乗せた。行き先を聞くと、山の方にある古い団地の名前を告げられた。

道中、バックミラー越しに何度か様子を伺ったが、女性はずっと窓の外を見ていて、一言も喋らなかった。こういう客は珍しくない。

団地の入り口に着き、料金を告げて振り返ると、後部座席には誰もいなかった。

ドアが開いた音も、閉まった音も聞いていない。メーターだけが、行き先までの正規の料金を表示したまま止まっていた。

気味が悪くなり、その場から急いで車を出した。

翌週、同じ時間帯にたまたま同じ団地の前を通りかかった。管理人らしき人が掲示板の張り替えをしていたので、何気なく声をかけてみた。

「この団地、もう随分古いですよね」

すると管理人は、こちらの顔をじっと見てからこう言った。

「ここ、五年前に取り壊し決まってて、もう誰も住んでないんですよ」

言われてみれば、窓という窓に灯りは一つもなかった。

それでも、あの夜料金メーターに表示されていた数字だけは、今も鮮明に覚えている。

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